暖かくなってくるにつれて、園庭ではだんご虫の動きも活発になってきました。年長の子どもたちの動きを見て、年少の子どもたちもダンゴムシをこわごわ触っています。それでも集めたダンゴムシは自分にとっては宝物のようで、私の所にも自慢げに見せに来てくれます。慣れた子どもは沢山集めて、「これはぼくのだんごむし」と言っているのですが、お帰りの時間になると缶に集められた虫がそのまま放置されていることがよくあります。3歳児たちにとって虫を集めることが楽しいのであって、集めてしまった虫への関心は高くないのです。靴箱の中に干からびただんご虫が、残されていることもあります。
しかし、5歳児たちは集めるだけでは満足しません。だんご虫は“何を食べているのだろう”“どこにすんでいるのか”といった声をきっかけにして図鑑を出してきてえさや生活している環境を調べて、集めた虫を育てようと言う協議が始まります。先生に虫を育てるケースを求めて出してもらい、土を入れ、葉っぱを集めてその中に入れ、石や小枝を入れて影を作り立派な家を作り上げます。自分中心だった3歳児から、自分を離れて相手のこと(この場合はだんご虫)を、相手の立場になって考えられるようになってくるのです。飼育し始めるとだんご虫にも愛着を持つようになり、色や形などのちょっとした違いを発見して名前を付け、育てることを楽しむ姿が見られるようになってきます。
ここで、一番大切なことは、私はネーミングの場面だと思っています。3歳からの経験を活かして子どもは生き物と触れ合うことを学んでいきます。その経験があるからこそ、年長児になってダンゴムシの生活に興味を持ち、ダンゴムシのちょっとした個体差に注目して名前を付けるのです。“色が少し濃いからこれはけんた”“縞模様がはっきりしてるからじゅん”などと、ちょっとした違いに着目して名前を付けています。このような違いの発見は、対象のダンゴムシに愛着を持って、毎日の生活を共にしているからこそ生まれてくるのです。
このようなちょっとした違いを自分で見つけ出し、周囲の人に伝えようとする力は、社会人になって必要とされる能力です。会社に入って新しい商品を開発する時、社会のちょっと変化に気付き、提案できる力を持つことは、どのような社会構造になっても必要とされる能力です。