年長の子ども達と幼稚園の山の家にお泊まり保育に出かけていた時のことです。夕食が終わって、庭で寝ころびながら満天の星空を眺めていた時、「たくさん星があるね。いくつあるのだろう」と尋ねると、けんじくんが「百個以上あるよね、千個かな、一万個かな、もっとたくさんあるかな」と言いました。それに答えて、みなちゃんが「もっとあったら、万の次は億と言うんだよ」と返したのです。この会話を聞いて、私が「億よりももっとあるかもしれないね」と言うと、けんじくんが「億より多いのなら億万かな」と答えました。すると、みなちゃんが「億万ではないよ。億より大きいのは京(けい)と言うんだよ。この前、塾で習ったもの。」と返しました。
先ほどの会話では、けんじくいんは万という言葉までは知っていたのですが、それよりも大きい数を表現する言葉は知りませんでした。でも、会話のやり取りの中で、万より大きい数に億という単位があることを知り、それよりも大きい数はという質問に、自分の知っている知識を活用して「億万」という言葉を生み出したのです。
幼児期に育ってほしい最も重要な能力は、知っている知識を活用して自分の世界が広がっていくという感触を身につけることだと思っています。教えてもらったという万、億、京という言葉を知っていたみなちゃんと、知っている知識を活用して「億万」という言葉は生み出し会話を継続していったけんじくんとの比較をした場合、社会に出て必要な能力を確実に身につけているのは、けんじくんではないかとその時感じました。
いろいろな知識を知っている方が良いことは間違いありません。ただ、たくさんの知識を知っているだけで社会の役に立つ仕事ができた時代は終わろうとしています。正しい知識は、本などの活字媒体を使用していた時に比べて、電子媒体の普及によって格段に早く便利に検索できます。幼児期は自分の持っている知識量が少ないからこそ、その知識を活用して自分の世界を広げようと能動的に活動する時期です。幼稚園という場所で、自分の考えを自由に表現できる遊びを通して、子どもたちは社会に役立つ、自分の知識を活用して世界を広げる深い学びをしています。これは、時間が区切られた空間で正しい知識を教える小学校とここが決定的に違う場所なのです。