「子育てに対して不安はありますか」

この問いに対して、幼稚園に子どもを通わせている保護者の方が、保育所に子どもを通わせている保護者より、“不安がある”という回答をした人の割合が高いという結果が、政府の調査機関から発表されています。

私は“子育てに不安がない”ということはありえないことだと考えています。育つに従って自分と違う人格を持った子と向き合わなければならないのですから“子育てに不安がある”という回答が自然な親子関係だと思っています。

人間の赤ちゃんは、他の哺乳動物よりも未熟な状態で生まれてくると言われています。生後約1年間は、自立して歩行ができません。ですから、命の全てを親に任せなければ生きていけません。親は夜間も緊張が解けず肉体的には大変ですが、子どもの思いを汲み取ることで子どもも安定した状態で生きていくことができます。

この1年を経過した後、子どもは全てを頼っていた親から、少しずつ自立した動きをし始めます。「自分はこうしたい」という思いが先行するのですが、それを表現する力はまだついていません。ですから親から見ても何を考えているのかが分かりにくいのです。こうした時期を乗り越え、自分の思いを表現する言葉を獲得して“幼児期”を迎えます。幼児期になっても表現力はまだ十分ではないので、時に思い違いが発生します。ですが、親子のコミュニケーションが少しずつ取れるようになってきたことで随分と楽になります。その一方、子どもの将来への不安が出てくる時期でもあります。子育てにしっかりと向き合ってきた親ほど、子どものことを第一に考えて生活してきましたから、子育てに対する不安が出てくるのが自然な現象だと考えています。子どもを育てるという未知の領域、未来への課題に向き合っている親が、不安を抱くほうが自然なのではないでしょうか。我が子の将来に対して不安を抱くことは、ごく普通の感覚なのではないかと思うのです。

子どもと向き合っていれば、毎日様々なことが起こります。自分の経験した範囲を超える想像もつかない行動を子どもは時に行うことがあります。現在の幼児教育の世界的な流れは、人間とは本来好奇心旺盛な生き物であり、幼児期においてはその一人一人異なる好奇心を一人一人に向き合い丁寧に引き出すことが重要だと考えています。世の中のさまざまな情報は一般的なことは述べていますが、自分の子どもだけを対象にした情報を与えてくれるわけではありません。一般的な情報に振り回されず、しっかりとわが子を見つめ、漠然とした不安と向き合ってほしいのです。それを乗り越えた先に、家族とかけがえのない楽しい時間を共有できる人生が待っていると思います。