実物のみかんを見て、“みかん”を認識できるレベルから、ひらがなで書いてある“みかん”という文字を見て、みかんを認識できるようになるのはいつ頃なのでしょうか。
3歳になって間もない“みなえちゃん”は、文字はまだ読めません。また、言葉を音で区切るということ、例えば“みかん”という言葉から実物のみかんを認識することはできましたが、“み・か・ん”という3種類の音の合成でみかんが表現されているという認識はできていませんでした。ですから、言葉を音で区切って遊ぶという遊びに、雰囲気では寄ることはできたのですが、ルールは理解できていなかったのです。
日本の子どもが、文字を意識するようになるのは、そのほとんどが自分の名前を書くという作業で習得されています。自分の名前がひらがなで書いてあるのを何度も見て、自分で少しずつ書き始めて、名前と文字が結びついてきます。“みなえ”ちゃんならば、“み”の文字を初めに覚えるのが自然です。そうして少しずつ文字の世界が広がっていきます。
では、どのようにして文字の世界が広がっていくのでしょうか。私は、最初に覚えた文字を手掛かりに世界を広げていっているように考えています。みなえちゃんが“み”の文字を書けて読めるようになると、今までの世界が少しずつ開けてきます。スーパーに買い物に行って、よく見ている“みかん”は知っていたのですが、遠くから実物は見えなくても、“みかん”の表示がしてあるところに行けば、私の知っているみかんがある。最初からすべての文字を知っているわけではないのですが、どこかで、私の知っている“み”の文字のところに行けばみかんがあるということに気付き、ある日突然“み”の次の文字が“か”、その次が“ん”だと気付く瞬間があるように思っています。
このような手順で、自分の世界を広げていく法則を自分なりに見つけて世界が広がって行くという感触は、この時期に育ってほしい重要な能力です。与えられて、教えられて世界を広げていくことが身に付いてしまうとどうしても受け身になってしまいます。私はここまで理解できたと意識化できることは、社会人になって、課題を与えられた時に非常に重要な能力の一つだと考えています。このように自分で世界を展開していく力を育てるノウハウを私立幼稚園は大切に育んできました。こういった保育を環境を通して学ぶ保育と言っているのです。